逆境ナイン

逆境ナイン (4) (サンデーGXコミックス)

逆境ナイン (4) (サンデーGXコミックス)

なんか新しい逆境ナインを読み返してたら
日の出商との試合で泣いてしまった


作者の島本和彦本人が
「自分の作品を単なるギャグ漫画として読む人もいれば、それ以上のメッセージを受け取る人もいる」
という通り
島本漫画は基本「ギャグにもシリアスにも捉えられる」という性質があるのだ


最近の島本漫画…というか炎尾燃シリーズでは
主人公が漫画家であるが故に自己を投影させて
自問自答な自己分析を繰り返すあまりなのか
他の代表作と言われる「炎の転校生」や「逆境ナイン」と比べると
かなり大人しい文系漫画になってるような気がする
一般的なイメージでは超熱血漫画家というのが強いが
島本和彦という人は実に「分析家」なのである
燃えよペンの同人誌*1辺りを読むと非常によく理解できる
自分の作品を客観視し分析をする能力は日本漫画界随一と言って過言ではないと思う
島本作品の節々に出てくるやたら大ゴマで語られる「教訓」は
決して梶原一騎本宮ひろ志ではできないであろう*2
熱血を数値で測りコマを配置するメタな計算がなされているのだ


逆境ナインだが後半に行くにつれて勢いがどんどん落ちていって
最終的には失速し終わった…
と思うのだが
それはあくまで読んでる方の印象かもしれない


燃えよペン以前の島本漫画は基本的に短命である
読者を選ぶが故人気がそれほど無い場合が多い
熱狂的なファンの読者が付いたとしても
作品自体にあまりにも勢いがありすぎるため
読んでる方が冷めてしまうのだ
つまりは読者より作者島本和彦の方が高いポテンシャルで作品と対峙してしまうのである…


逆境ナインの長さとテンションが一番良いくらいだったのかもしれない
逆に吼えろペンは長期連載であるが
かつての勢いがなく、ストーリーもギャグに傾いてるものが多い
島本和彦にしてはコクがない
という印象も受ける
なんかどっちもどっちだ…

さて

http://www.gk9.jp/
逆境ナイン復刻は映画公開にあわせたものである
当の映画は出演者も豪華で気合いが伺える
しかし、前述の通り島本作品の根幹にある
ギャグと熱血の間*3を描くのは
独自の島本理論によって確立されているものである
大袈裟すぎて一見ギャグにしか見えないがちゃんと方程式に基づいて描かれている
これは日本出版界独自の感性を育む土壌の上に成り立つものではないだろうか?


漫画はもちろんスタンドプレイではできない
編集やアシと力を合わせて作るものである
逆境ナインから言葉を借りれば
島本和彦のやる気パルスにまわりのスタッフが合わせなければいけない
だが映画の現場で同じ事をやるには難しいのではないかと思う
逆境ナインは漫画だ、漫画だからこそ多少のやり過ぎも後から補正したり
前後の流れで引き込む事ができる
岩明均諸星大二郎等の作画のレベルだけで見れば「ギャグかそれは」という作家でさえ
独自の技法を原稿に施すことによって「ツッコミのがれ」が可能だ
しかし映画は実写である、モロに映像になる
その上映像を作る上での役者や編集、撮影のスタッフの主張もそこに現れてしまう
監督がいくら指示しても「これはギャグだ」という一人の人間の主張が介入する事で
全体の均等が崩れてしまうのではないかと思うのだ
スタンドプレイが許されないが故、全員にパルスを送るのが難しい故
原作にあるギャグに行きそうで行かない絶妙なバランスを再現するのが困難なのではないかと思ってしまうのだ


どちらにせよ映画が気になるところです…

*1:まだ売ってるのかな?

*2:関係ないけど「敢えて寝る!」って凄い名言だと思う

*3:なんかこんな小説あったな